『猫談』

山中麻弓『猫談』新潮社、1996年10月、ISBN:4104143014
ひじょうに楽しい。ファンになった。ほかの著書も読みたくなった。
私も子どもの頃から生き物は好きだった。小学校に入っていちばん楽しかったことは、帰り道にアリの行列を追いかけることだったぐらい。
だからこの本に書いてあるようなことはいっぱいやった。「ああ、ああ、やったやった、そんなこと」と、記憶が次々とよみがえってきて楽しい。
子どもは残酷だから、意味もなく虫を殺戮することがある。昆虫採集と称して蝶をつぎつぎと虐殺したり、トンボに爆竹をつけて飛ばしたり、カエルで野球をしたり。その時は調子に乗ってやってて、ひどいことをしたと後から気付く。今でも胸がちくちく痛む思い出だけど、そのおかげでそれより悪いことはできなくなった。(今までのところ、かもしれないけど)。
また子どもは基本的に無責任だし、気まぐれだし、無知でもあるから、悪気がなくても動物を死なせてしまうこともある。ちょっとした不注意でも、小さな命はあっけなく死んでしまったりする。道端に落ちていたムクドリを拾って帰って、看病のつもりで、毛布にくるんだり、水を飲ませたりしたことがあったけど、あれはかえって死を早めたかもしれない。すぐに死んでしまった。金魚鉢の水を換えようとして、うっかり金魚を下水に流してしまったことも一度ならずあった。死んだ生き物たちには気の毒だけど、そういう経験を積んできたおかげで、こっちの思いどおりにはならないことを身をもって学んだ。生命あるもの、それぞれあっちの事情とか仕組みで生きている。こっちの思いには関係なく、死ぬときはあっさり死ぬ。人間だって大して変わらない。そういう感覚は身に付いたと思う。
思い返してみれば、子どもの頃はそんなことばかりしていた。それがのちのち何かの役に立っているかと尋ねられると、ちょっと言葉で説明しにくいけど大事なことをたくさん学んだとは言える。生命を大切にしなくちゃいけませんとか、そういうことを人から教えられた記憶はない。(言われたけど忘れてしまった可能性は大きい)。でも自分の経験から学んだことは一生忘れないだろう。塾通いをして勉強ばかりしている子どもじゃなくてほんとうに良かった。
この本は、もちろん猫バカ本としても読める。猫それぞれに個性があって、じょうずにつきあっている様子も好ましい。