『人生を完全にダメにするための11のレッスン』

ドミニク・ノゲーズ『人生を完全にダメにするための11のレッスン』青土社、2005年11月、ISBN:4791762460
きわめて愉快な本。知性と教養のムダ使い。バカバカしいほど厳密な定義や計算式。ギリシャ文学から現代思想までの華麗な引用。それらすべてが人生を完全にムダにするため。
人生をムダにするのも簡単ではない。なにせ基本原理だけで43もあり、しかもその中には互いに対立しあうものも多い。いつどこでどの原理を適用するか。うっかりすると、失敗することに失敗してしまう。つまり成功してしまいがち(失敗の失敗は成功なーのだ)。また極端な不幸はむしろ幸福にたどり着いてしまいかねない。いや難しい。
おもしろいのは、裏返しの幸福論でもあること。完全に不幸になることがそれほど難しければ、それはある程度幸福なのだとも言える。幸福といい、不幸といっても、しょせんはそういうもの。人生いつだってある程度は幸福で、ある程度は不幸なのでありましょう。
この本を読んでか読まずにか、人生を完全にダメにしようと日々努力している人も少なからず見かける。そういう人にはぜひ勧めたい。
翻訳について。なぜか芸術の「藝」と、尽くすの「盡」が旧字。意図はなんだ?

一、差別的言辞、とくに障害者への差別ともとれる表現は修正する。
二、あまりに「露骨」と編集部が判断したポルノグラフィックな短章(千七百字程度)については削除する。

これを真面目にやっていたとしたら愚かなことだ。解説めいた的外れな文章も蛇足。ただし訳者なりのいたずらである可能性もある。確かめるには、返信用切手を貼った封筒同封を青土社に送ればよい。やってみるか。