悪女の純情。

藤沢周平『小説の周辺』1990年1月、文春文庫、ISBN:4167192241
藤沢周平のエッセイ集。通人ぶらず粋がらず、ごくごく普通に毎日を生き、老いも衰えも淡々と受け止めているところに好感。
「悪女の純情」という言葉。「肩入れしたくなる」と語っているとおり、そういう人物が氏の小説にはよく出てくる。私も好きだ。が、いまの日本ではもはや死語かもしれない。「悪女の深情け」もそうか。いや、そもそも「悪女」という言葉が死語なのか。
それは、女性が生きていくうえでの社会的な制約が非常に少なくなったからか。かつては女性が強くなろうとすれば「悪女」と呼ばれざるをえなかったけれど、いまは「悪女」でなくても強く生きていける。そういうことなのか。それだけ女性が解放されたのだとしたら、喜ばしいことかもしれない。でも強いだけじゃ味気ないとも私は思う。