喰うべきか、喰わざるべきか。

ある家の横を通りかかったら「ブホッ、ブホッ」って音がする。フィラリアにかかった犬が咳でもしているのか思って覗いてみたら、大きめの犬小屋があって、敷物がはみだしている。暗くてよく見えないから、じーっと覗きこんでいると、違う方向から「ブホーッ、ブホーッ」って声がして、何かがこっちへ近付いてくる。え?ブタ?
ブタだった。白くてよく太っている。なんだか人なつこい。フェンスをへだてたすぐ向こうまでやって来て、こっちに向かって鳴く。うーん,ブタかあ。この家の人がペットとして飼っているのかなあ。
でも私の頭にまず浮かんだ言葉は、「おいしそう」だった。だってたくさん肉を取れそうだったんだもん。こんな私には、ブタをペットとしては飼えそうにない。ブタは頭が良くて、人になつくから、じゅうぶんペットになるって聞いたことがあるけど、無理。だって、いくらかわいがっていても、いくらなつかれても、「いつしめようか。そろそろ食べごろかな」って考えがふと浮かんでくるのを止められないだろうから。
残酷みたいだけど、日本でも私の両親が子どもだったころまでは、そういうのは当り前のことだった。家でニワトリを飼って貴重なタンパク源にしていた。卵を食べたり、卵を生まなくなったらしめて、肉を食べたり。
いまだって、自分の手でやっていないだけで、同じことじゃないかな。自分の見えないところで、他の誰かがやってくれているから知らないふりをしていられるだけで、他の生き物の生命を奪って生きているのは変わらない。だから私は、せっかく奪った生命をおいしく、ありがたくいただくようにしている。