『植物のこころ』

塚谷裕一『植物のこころ』岩波新書、2001年5月18日、ISBN:4004307317堺市立中央図書館蔵 471/ツ/M)
「赤の女王」仮説というのがおもしろかった。知らんかった。
有性生殖が無性生殖よりすぐれている理由として遺伝的多様性が得られるという点がよく挙げられるが、では遺伝的多様性のどこがいいのかという問題。
外敵や環境はそう急激に変化しないから、その変化に対応するために多様性を確保しておくのはムダ。むしろ最高に適応できたらあとはクローンで増えるほうが効率がいい。では何に対して多様性を持とうとするのか。その答えが「赤の女王」仮説。つまり絶えず急激に変化する病原体に対処するうえで遺伝的多様性を持っていると有利になるのだと。
ちなみに赤の女王とは、『鏡の国のアリス』に登場する人物で、「外の世界がものすごいスピードで変化しているときには、絶えず走っていないと同じ場所にいられない」と説くのだそうだ。これは忘れてる。
その「赤の女王」仮説以外の部分は、そう驚くようなことは書かれていなかった。全体に非常にわかりやすく、いつの間にか頭の中に入っていた雑多な知識が、読み進むうちにすっきり整理されていく気持ちよさはあったけど。(あと、著者はわりと古典的な進化論の立場に立つようだけど、進化に関して私はまだまだ疑問いっぱい)。ということで、本書の狙いは、

実は、植物の生命と動物やヒトの生命とは、そんなに違わない。私の当面の目標は、皆さんにそのことに気付いていただくことである。(pp10)

なんだそうだけど、私の場合、そのへんの区別がはじめからあまりくっきり付いていないのかもしれない。
ところでこれだけわかりやすくかかれているにもかかわらず、「ハードルが高い」という評がAmazon.co.jpにあったけど、それは単に読む本を間違えたんじゃないかと。これでわからないんなら、小学生向けぐらいの本を読めばいいんじゃないかと、そう思った。バカにしているわけじゃなくて、むしろそういう人はそのぶん余計な知識にとらわれず、新鮮な見かたで植物を見ることができるはずだと、私は本気で考えている。