『淋しい狩人』

宮部みゆき『淋しい狩人』新潮文庫、1997年2月1日、ISBN:4101369178

前にも言ったけど、宮部みゆきの本のいけないところは、読み始めたら止められないことだ。
翌朝早くに起きなければいけない夜とか、とっても忙しくなることがわかっている日を控えているときは、ぜったいに読み始めてはいけない。
もう何度も失敗して、じゅうぶん懲りているはずなのに、またやってしまった。

宮部みゆきはうまい。
いまさら言うまでもないことだけど、言わずにはいられない。
短編だとそのうまさがさらに引きたつ。
最初の1行から世界に引き込まれる。
よけいな文章がないから、想像力が最大限に刺激される。
「うーん、うまい」と唸りながら、けっきょく最後まで読んでしまった。

東京下町にある田辺書店という古本屋を舞台に、店主のイワさんと孫の稔くんを軸に世界が展開する。
中心にあるのはイワさんと稔くんのあたたくて親密な関係だけど、外の世界の暗い、悲しい、重苦しい、いろいろな事件が、本をなかだちにかかわってくる。
本を媒介にしてイワさんや稔くんが事件に巻き込まれていく、このへんのしかけも巧み。
けっきょく最後は予定調和かもしれないけど、娯楽小説はそれでいいんです。
まっとうに生きることは簡単でも楽でもないかもしれないけど、清々しくて気持ちいいな、って確信できるんだから。

この文庫版には大森望の解説がついている。
これもなかなかおもしろい。
宮部みゆきは歌もうまいんですか。それは初めて知りました。
それはいちど聞いてみたいものですな。
いっそレコード・デビューとか(いや、言い方が古いな。CDデビューか)しないかな。
するわけないだろな。

ついでに、いやついでというのは失礼だけど、ついでに読むという意味ではなく、山本周五郎の『赤ひげ診療譚』を読みたくなった。