『ヒトクセある心理臨床家の作り方』

団士郎『ヒトクセある心理臨床家の作り方 わが研修遍路日誌』金剛出版、2002年10月20日ISBN:4772407561
児童相談所の心理相談員になったことから心理臨床家の道を歩き出した著者が、さまざまな研修を受けながら経験したことをいっけんつれづれに書き綴った本。
とても面白い話がたくさんあった。
いや面白いでは済まない深刻な話もあるから、面白いというのは不謹慎かもしれないな。
興味深い話がたくさんあったと言っておく。

心理学には昔から興味があった。
初めていちおうちゃんとした先生から教わったのは大学の一般教養。
ところが講師も内容も覚えていない。
ただ1つ、<心身一如>という言葉だけは覚えている。
やけに反発を感じて、だから20年以上たった今も覚えている。
「1つのものだったら、最初から2つに分けなきゃいいんだ。
2つに分けるには、それなりの理由があるだろ。
それを無視して、気楽なことを言うな」。
そんなふうに感じて、友人と話をした記憶がある。
お題目というか、空虚なスローガンみたいで嫌だった。
きれいに整いすぎた理論に対して、「現実から目をそらして絵空事を語っている」と反発を感じたり、なんでも説明できる理論に対して、「何か嘘くさい」と警戒心を持つのは昔からのことだったようだ。。
まぁ、本当のところ、その講師が性格的に合わなかっただけかもしれないが。

この本の著者は、心理臨床の現場に立ち続け(プレイング・マネージャー的立場にいたこともあるようだが)、さまざまな理論・技法に基づく研修プログラムを受けながら、そのどれにも完全には染まらずに、自分が訓練する側にまでなった。
だから最後まで興味深く読んだ。

ところで、「第6章 からだとこころ・ボディワーク入門」を読んでいて甦ってきた記憶がある。
<暗闇の出会い>というプログラム。
これは、真っ暗闇の中で未知の参加者同士が手探りで誰かと出会うエクササイズ。

部屋中の最初の妙な活気はおさまっていた。しずかな暗闇をそろりそろりと動いたら、誰かの肩(?)とぶつかった。

と始まる、未知の他者との、言語を使わないコミュニケーション。

私が思い出したのは、ある頃気が狂うほど好きだった女の子と、スイミング・スクールで練習をしている時に、肩と肩がふとくっついてしまったこと。
肩と肩の触れているその皮膚の接点から、その子の体温とか呼吸が伝わってくるのを感じ、向こうにもこっちのそういうものが伝わっているのかと思い、さらにこっちの思いとか何とかも伝わっているかもしれないと考えると、何だか容易には離れられなくなってしまった。
そういう経験をしたことがある。
くっついていたのは分かっていたはずなのに、すぐに離れなかったところを見ると、嫌われてはいなかったのかなぁと、振り返って思ってみたり。
いや、だから、そこ、毒男キモイとか笑わないようにね。