『ミミズのいる地球』

中村方子『ミミズのいる地球 大陸移動の生き証人』中公新書、1996年4月、ISBN:4121012984
まず意外だったのは、ミミズの研究者が少ないこと。同定や分類にも困難をきたすほどだそうだ。著者も、ダーウィンの例の『ミミズと土』を学生時代に読んでから、じっさいに研究に取り組むにいたるまで、ずいぶん遠回りをなさったようだ。偉大な生き物なのにねえ。
田子ノ浦のPCBの行方」の節では、有害物質の埋め立て処理が必ずしも安全ではないことを知らされた。洪水などで流される以外にも、ミミズなどの働きによって土は下から上に持ち上げられていくからだ。著者による調査の範囲では、田子ノ浦のPCBを埋め立てた富士川河川敷は問題ないようだったが、長期にわたる監視が必要だ。問題は富士川河川敷に限らないし、PCBにも限らない。
熱帯雨林の伐採について。いったん伐採されると薄い表層土が流失されてしまい、ミミズが住めなくなること。これは伐採したあとに植林をしても同じ。植林といっても、伐採以前よりはるかに種類の少ない樹木を植え、その樹木に害となる昆虫を駆除するための殺虫剤をまくことによって、生態系を大きく変化させてしまうことには変わりがない。
熱帯雨林の保護といっても、二酸化酸素の観点だけから見ていたってダメなんだ。私たちにわかっているのは、複雑なシステムのほんの一部であること。ほんの一部をわかっただけで、タカをくくっていじくると、予想もしなかった結果が起こりうること。これは忘れてはいけない。