『勝利』(ネタばれあり)

ディック・フランシス『勝利』2001、早川書房ISBN:4152083476)。
納得いかない。
なぜ親友の旗手マーティンはいきなり死んでしまったのか。その死が物語の大事な鍵かと思ったら、全然そうではなかった。彼がなぜ死ななければならなかったのか。なんの説明もない。彼の死によって残された人間たちの生活に起こる波紋が描かれるだけだ。
なぜ警官のポールは唐突に現れて死ななければならないのか。その死のおかげでこの物語はまるく収まった。それだけだ。
確かにほんとうの現実はそんなもんだ。
ただ運が悪かっただけで、なんの意味もなく人が死ぬことはある。
残された人間には誰かがいなくなった世界を生きていくことしかできない。
そこでは「なぜ」という問いに答えはない。
でも小説もそれでいいのか。
「現実っていうのはこんなもんだ。現実と違う世界を私の小説に期待しなさんな」。それがフランシスのメッセージなのか。
どうしても納得いかなかった。