『新 治る医療、殺される医療』

小野寺時夫『新 治る医療、殺される医療』中公新書ラクレISBN:4121500040)。
タイトルはずいぶん物騒だけど、中身はいたってまとも。
医師である著者自身の経験を基に、日本の医療の問題点やその原因を冷静に書いている。
まず「良い医療を受けるためには―まえがきに代えて」を読んでみて、納得いかない人があとの部分を読むべき。

医者にメス「治る医療、殺される医療 目次」
http://www4.airnet.ne.jp/abe/books/98/toc_onodera.html
(新版には、「第II章 医療を改善できるのは患者」の章に「7 インフォームド・コンセント」、「8 セカンドオピニオン」、「9 カルテ等の開示」の3節が加えられている)。

ではこういう医療を良くするにはどうしたら良いのだろうか。
著者の主張は「患者が日本の医療を変える」。
「熱心に医者と病院を選びなさい。そうすれば医者も病院も淘汰され、変わるだろう」。
そのとおりだと思う。
それ以外に方法はないだろう。
立法や行政、裁判には期待できない。
少なくとも短期間で急速な変化を起こすとは期待できない。

ただしその前に1つ前提がある。
それは患者が(だいたい)正しい選択をするという前提。
でも今のままではそれは期待できない。
患者がもう少し賢くならなければ、いくら熱心に選んでも良い方向へは行かないだろう。

果たして患者は賢くなるだろうか。
この本の中で挙げられているように、日本人が車を買う時は確かに熱心に選ぶ。
おかげで日本の自動車メーカーが国際的な競争力を持ったのは事実だろう。
でも家を買う時はどうだろうか?
簡単な計算をすれば損をすることが分かりきっているのに、何千万円もする分譲マンションを20年、30年のローンで、しかも現物も見ずに買う人が後を絶たないのはなぜ?
住宅と同じように医療も日本では保護産業だ。
そこでは利用者が賢くならないような働きかけが常にある。
そしてたぶん賢い人も賢くなりたい人もまだごく一部なのだ。
きっとその方が楽だから。